他作解説(爆)03「裂けた封印」
ショートショート小説としても読み応えのある、一級のサイコ・ホラー作品ですなあ。 というより、むしろ、あまりポエム然としてないので、作者自身は小説としてのスタンスで書いたのでしょう。 プロット(=あらすじ)自体は、どこかで聞いたことがあるようなものなのですが、穴埋め企画作品だということをまったく感じさせない筋の通ったストーリーテイリングです。
ライバルの産んだ赤ちゃんを奪い去ったわけなので、業の深さやエゴの強さに由来するサイコな怖さはもちろんあります。 でも、この作品の質を高めているのは、その先にある悲しさ・淋しさ・切なさです。 たぶん彼女(=叙述者)は、当初、自分だけが「彼の子を産みたい」という願望を諦めさせられたことに対する憤りから、仕返し目的で誘拐を強行したのでしょう。 ところが、その後の長い年月、この偽りの親子は、予想をはるかに上回るほど幸福な日々を送ったものと見受けられます。 そして、何かがきっかけとなって、本当の親子ではないことがバレてしまったようです。
思うのですが、この母子の幸福は決して偽りではなかったはずです。 歪められた出発点から始まったこととはいえ、その幸福は本物だったに違いありません。 母は当初の目的とは関係なく、自分が産んだのではないその我が子をとても愛しく思ってしまったのです。 だからこそ『封印』を解かれたくなかった。自分自身でさえ忘れたことにしたかったほど、知られたくはなかったのです。 この辺りが、とてつもなく切なくて良いです。
「泥棒にも三分(さんぶ)の理(り)」という言葉があります。 正しい意味は「筋の通らないことでも、理屈をつければつけられるということ」となっています。 ですが、メガのイメージでは……誇大解釈ではありますが……「悪人にだって、ちょっとくらいは同情すべき、やむにやまれぬ理由・都合・動機があるんだ」という意味にもとれます。 本作の主人公の切なさ・悲しさに触れて、なんだか上記のことわざを思い出してしまいました。
この作品を小説だと仮定して読むと大変短いのですが、主人公のさまざまな想いが凝縮されていて、短い中にも、とても深いドラマがうかがい知れます。 そういえば、ぐりぐりは、ただ単にサイコ・ホラーが好きというだけでなく、切ない物語を特に好んでいたなあ、と今さらながら思い出しました。 そういった作者自身の嗜好が遺憾なく発揮された秀作、と言えるのかもしれませんね。
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